健康を維持する食べ物と身体の関係を中医学的に解説
中医学には陰陽五行という考え方があり、自然界の生態バランスと人体の生態バランスが上の図のように関わり合って維持できていると考えられています。
ある方からこの表の見方が良くわからないというお問い合わせがありましたので、解説したいと思います。
お問い合わせの内容は以下の通りです。
「以前いただいた五行の表の見方ですが、外側の矢印が促進、内側が制御とのことですが、具体的にどういうことか教えていただけますか?
例えば、腎に分類される食べ物をとった場合、肝の働きを良くして、心の働きを弱めてしまうのでしょうか?
促進と制御の意味、ご説明いただけると助かります」
というものです。
表だけをみるとそのようにとらえてしまうことがあるかもしれません。しかし、法則をある程度理解していないと、全く別の方向へ行ってしまいますので注意が必要です。
理解が深まると、ご自身の生活養生の仕方が腑に落ちてきます。
この機会にしっかり理解を深めていきましょう。
目次
五行学説は中国の哲学理論
中国哲学といえば陰陽学説をご存知の方も多いと思いますが、陰陽学説と並んで五行学説というものがあります。
以下引用
[五行学説の基本をなすのは、世界のあらゆる事物・事象が木・火・土・金・水という5種の基本物質の間で生じる運動と変化によって生成されるという認識である。中医学における五行学説とは、そのような認識を医療に応用するという観点から導かれたものである」
中医学基本用語辞典 東洋学術出版より引用
つまり、木・火・土・金・水という五行を人間の臓腑・体の器官・味・感情と関連付け、五行の動きによって我々の体が保たれているということなのです。
そこには規則性があり、大まかに分けると促進(助ける)と抑制(コントロール)の働きになります。
五行と臓腑の関係
上の表に沿って確認していきます。
1.肝の特性
肝は木の性質をもっています。木は上へと延びる特性があり、締め付けを嫌います。
草木が青々と生長する季節は春。春には風が多く風の邪気を受けやすい。春の果樹には酸味が多く肝は酸っぱい味を好みます。
肝の働きは目に現れ、筋・筋肉・腱・爪の状態にも関与します。「怒り」の感情と関係し、ストレスに一番左右されるところです。胆の働きにも影響を及ぼします。
2.心の特性
心は火の性質を持っています。火は温めたり熱したりして上昇しますので、季節は夏。全身の血液の運行に関わり、精神や意識・思考をコントロールするところでもあります。
心の働きは「舌」に現れ、苦みを好みます。「喜び」という感情に関係し、小腸の働きに影響を及ぼします。
3.脾の特性
脾は土の性質を持っており、土は万物を生み出すことから、扶養・生長・発育という特性があります。
飲食で取り入れた栄養を全身に運んだり、不要なものは排泄するという働きがあります。
体を発育させたり、気血を生み出すためには重要な働きを担っています。
甘味を好み、季節は土用(夏と秋の間)。「思う」という感情に関係し、胃の働きにも影響を及ぼします。
4.肺の特性
肺は金。金は役に立つものに変えることができます。全身の気(免疫)、呼吸、水分の分布に関わります。
肺が正常に機能しているかどうかは皮膚、嗅覚や鼻の状態を見るとわかります。
季節は秋。辛味と「悲しい」という感情に関係し、大腸の働きにも影響を及ぼします。
5.腎の特性
腎は水。水とは体の各臓腑・組織・器官を滋養、滋潤する性質があるということです。
主な働きは生長・発育・生殖・水分代謝を担います。
腎が充足していれば、脳・骨・歯・髄・聴覚の発育や機能が滞りなく働き、頭髪は黒く艶があります。
季節は冬。冬は蓄える季節ですので食べ物からとった栄養を蓄えておくところです。
「恐れ」という感情に弱い臓です。膀胱の働きにも影響します。
促進の関係
外側の矢印が促進の関係です。
肝は心を助け、心は脾を助け、脾は肺を助け、肺は腎を助け、腎は肝を助けます。
例えば現在、「肝」が弱った時の症状が現れているとしたら、腎は肝を助けますので、腎を補いながら肝を調整していくと良いわけです。
養生としては腎と肝に良い食べ物を摂るのが良いのです。
ご質問の方の促進の理解は、概ね正しいと言えますが、体が冷えているのか熱いのかによっても食べ物の取り方が違ってきますので、そこにも注意していただけたらと思います。
抑制の関係
内側の矢印が抑制の関係です。
抑制とは、通常の状態では特別何か起こるわけではありません。
ある臓腑が異常に亢進しないために常にコントロールされている関係にあるということです。私たちの体は自然に促進と抑制の関係で恒常性を維持しているのです。
例えば腎が心をコントロールしている関係とは,
腎の機能を強くしておくことにっよって、心の機能が亢進した時に出る高血圧や動悸などを
起こしにくくする関係にあるということです。
逆に言えば、腎が常に心をコントロールしているおかげで、心の働きが正常に回っていると言えます。また、誰しも年をかさねるにつれ、腎の機能は自然に弱くなってきますので、心が亢進しやすくなるのに伴って動脈硬化や不眠などの症状が現れやすくなります。
ご質問の、腎に良い物を食べると心の働きを弱めるのかというのは、正常の状態の時は心の働きを弱めたりすることはありません。
病気の状態の時、例えば動悸や不眠、高血圧などの症状が強くでてきた場合、腎が弱くて症状が出ていると思われれば、腎を補うものが必要です。
一方で腎は正常レベルにあるが、心だけが異常に亢進していて症状が出ている場合は、直接心を鎮静させるものを補ったほうが良いのです。
ただ、症状として現れた場合は食べ物だけでは難しく、腎を補う、または心を鎮静させる漢方薬を使ったほうが良いでしょう。
五行の関係を知って生活養生に応用しよう
何か症状が出ている時に最初に自分で気をつけることとしては、まずその症状がどの臓に関連しているのかを把握します。
例えばイライラして、胸やお腹が張り、食欲も低下しているとします。
イライラと胸の張りは「肝」の症状、お腹の張りと食欲低下は「脾」の症状です。
これは肝が亢進して脾を抑制しすぎている症状です。
亢進した肝を抑制して、脾の働きを回復させるという場合もあります。
また、肺が弱くて肝を抑制できずに肝が亢進してしまったということも考えられます。その場合は肺の機能を調整することも必要です。
少し難しいかもしれませんが、少しでもそのような考えを取り入れていただくと健康管理に役立つと思います。
自分によく表れる症状を把握し、トラブルをかかえている臓がどのようになっているのかを知ることが体質を知ることになります。そしてその症状が出ないように食べ物に気をつけるという養生法です。
慢性病を作らないためにも、感染症にかからないため、かかっても重症化しないためにも自己管理が重要であることは間違いありません。
慣れないとなかなか自分で分析できないかと思います。そんな時アドバイスするのが我々の役割ですので、遠慮なくご相談ください。